世界で、現在最も市場の規模が拡大しているビジネスとして越境ECがあります。越境ECとは、オンライン上で海外のサイトを通じて商品の売買を行うビジネスのことを指します。
越境ECの市場が大きい国家として中国やアメリカなどの先進国が注目されていますが、EUの越境EC市場も規模はかなり大きく成長しています。
越境ECでは、商品を輸出入する際に必ず国の関税を通過する必要があります。中でも、EUやアジアで普及している税金としてVAT(付加価値税)という間接税があるのをご存じでしょうか?
ここでは、VATの詳細とVATの規則を変更した理由に加えて、今後の越境ECへどのように影響するのかを解説していきます。
目次
VATとは?物やサービスを購入した際に課税される税金のこと
越境ECに大きく関わりがあるといわれるVATとは、一体どのようなシステムなのでしょうか?
VATとは、物やサービスを購入した際に課税される税金のことを指します。つまり、日本での消費税とほぼ同じです。
日本の消費税は物やサービスの消費に課税されます。それに対して、VATは物やサービスが商品として価値をもつまでに加えられた付加価値に対して、課税した税金です。
また、課税対象は地域によって異なりますので、国のサービスや政治によって税率は大きく変わります。
下記の国家がVATが導入されている国家です。
- 中国
- 台湾
- アメリカ(オレゴン州)
- EU
ここからは、上記の国家のVATの特徴について詳しく解説していきます。
中国のVAT
中国のVATには、増値税という税金があります。増値税は納税者によって税率が異なるということが特徴として挙げられます。
特に、商品の購入や輸入の際には税率が13%となり、多くの税金を支払う必要が出てきます。現在は、増値税の減税が進められているため、将来的に、増値税はより低くなると予想されています。
また、越境ECのビジネスを展開している場合には、軽減税率の対象になるので中国では越境ECのビジネスがスタートしやすいです。
台湾のVAT
台湾では、税率が5%と統一されている営業税という税金があります。営業税は、日本の確定申告と違い、2カ月に一回申告をする必要があります。
また、申告をする際には、レシートが必要になりますので、台湾で越境ECのビジネスを展開する場合には、レシートを保管しておくようにしましょう。
アメリカのVAT
アメリカには州ごとに法律があり、税率も州によって違います。例えば、税率が0の州もある反面、税率が10%近くある州もあります。そのため、アメリカで越境ECのビジネスを展開する方は、事前に税率を確認しておきましょう。
EUのVAT
EU域内のVATの税率は基本的に15%以上となっています。他の地域と比較した際に、EU域内のVATは高いということがわかります。EUにはVATの還付を受けることができる制度があります。還付金を受けるには、VATが課税されたレシートと申告書を大使館に持参する必要があります。
また、輸入面でも、商品の金額が22ユーロの場合は、免税対象となっていましたが、昨年の新制度によって越境ECビジネスに大きな影響を与えました。
では、EUのVATの新制度とは、どのような制度なのでしょうか?EUのVATの新制度の特徴は下記のようになっています。
- 輸入VAT免税の制度を廃止
- 輸入ワンストップ制度の導入
ここからは、上記の特徴について解説していきます。
輸入VAT免税の制度を廃止
先ほども述べたように、輸入の際に商品の一度の購入額が22ユーロ未満であった場合は、VATの課税はありませんでした。しかし、2021年の7月から22ユーロ未満であった場合でも、VATの課税が義務化されました。
したがって、EUに進出している日本企業はVATを納税する必要性があるということになります。
輸入ワンストップ制度の導入
新制度が制定されたことによって、輸入ワンストップ制度がEUで新たに導入されました。輸入ワンストップ制度とは、150ユーロを超えない取引の会計処理を簡略化できる制度のことを指します。
つまり、150ユーロ以内の場合は、輸入ワンストップ制度によって税申告を行う必要が無くなるということになります。
また、輸入ワンストップ制度によって、商品の到着時にVATを徴収する必要性が無くなりました。そのため、業務を効率化することができるようになりました。
なぜ、EUはVATの規則を変更したの?
VATの免除制度がある事から、EUのVATの規則は事業者と消費者のどちらにとってもメリットが大きいです。では、EUはなぜVATの規則を変更したのでしょうか?VATの規則を変更した理由は、主に3つあります。
- VATの徴収を確実にするため
- 会計業務を簡略化するため
- 消費者へVATの支払い請求する必要性をなくすため
ここからは、上記の理由について詳しく説明していきます。
VATの徴収を確実にするため
欧州委員会によると、VATの徴収を確実にすることで、EU域外の少額輸入を繰り返し脱税をしている事業者を減らす目的があるといわれています。
VATの虚偽の申告によって、年間70億ユーロ以上の脱税行為があるとされています。
会計業務を簡略化するため
VATの新規則によって、EU域内・域外の事業者の会計業務を簡略化することができます。また、輸入ワンストップ制度を導入することによって、VATの申告と支払いをオンライン上で行うことを可能にしました。
消費者へVATの支払い請求する必要性をなくすため
従来の場合は、商品を受け取った際にVATの支払いを請求されていたため、消費者にとって大きな手間となっていました。
しかし、VATの課税対象を拡大させたことによって、オンライン上で、先にVATの支払いを行えるようになりました。したがって、多くの方は商品の受取時に税関やクーリエサービス業者から、度々、VATの支払いを請求されることは無くなりました。
また、消費者だけではなく、税関やクーリエサービス業者の請求する手間も省くことができるというメリットが挙げられます。
今後の越境ECへの影響
ヨーロッパで越境ECビジネスを展開する上で、VAT制度の変更には大きな影響があります。では、VAT制度が変更されたことによって、今後の越境EC業界にはどのような影響があるのでしょうか?VAT制度が変わったことによって、主に3つの影響があります。
- EUの越境ECに参入する事業者の増加
- 悪徳業者の減少
- EUの越境ECユーザーの減少
ここからは、上記の影響について詳しく解説していきます。
EUの越境ECに参入する事業者の増加
EUで輸入ワンストップ制度が導入されたことによって、税金の会計処理をする必要性が無くなりました。そのため、EUの越境EC市場への参入が簡単になり、多くの事業者がEUを拠点としてビジネスを展開するようになります。
しかし、事業者が増加するということはEUでの越境ECの競争率が上昇するということを理解しておきましょう。
悪徳業者の減少
VAT免除の制度を廃止することによって、脱税が困難になります。そのため、VATの申告と支払いを行わない悪徳業者の減少が予想されます。
また、EU域外にいる悪徳業者にもVATは課税されるので、平等にビジネスを展開することができます。
EUの越境ECユーザーの減少
VATは消費者に課せられる税金であるため、VATの免除制度が廃止されると多くの方が越境ECの利用をやめることが予想されます。特に、EUのVATの税率は高く、15%以上の税率を課せられます。
EU域内の越境ECユーザ-の減少を防ぐためには、事業者がさまざまな工夫をする必要があります。
まとめ
ここまで、VATの概要とEUがVATの新規則を制定した理由について詳しく解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
EUでの越境ECは普及しており、世界でも有数の市場規模となっています。VATの規則を変更することによって、会計処理が簡易的になるというメリットがある反面、22ユーロ以下の商品にも課税がされるようになるというデメリットもあります。EUの越境EC市場に進出している事業者は、VATを支払っても商品を購入したいと思わせるようなサイトづくりに努める必要があるといえます。
また、EU以外にも、さまざまな国家で越境ECビジネスは人気が出ております。今回の新規則が自社にとって悪影響と考える場合は、EUの越境EC市場からの撤退も検討しましょう。
VATの理解は今後の越境ビジネス展開において非常に重要な位置づけとなっております。VATの新制度を理解することによって、EUでの越境ECビジネスを有利に展開していきましょう。