海外の顧客獲得、新たな販路拡大のために海外に実店舗を出そうとすれば、多額のコストがかかります。しかし、越境ECであればインターネット上で取引が可能であり、コストやリスクを抑えつつ、ビジネスを拡大していくことが可能です。
今注目を集める越境ECについて、メリット・デメリット、越境ECを始める前の注意点などについて詳しく解説していきます。
目次
越境ECとは?
越境ECとは、インターネットを通じて日本国内から海外に向け、商品を販売する電子商取引(EC)のことを指します。現在、市場規模が急成長しているため、注目を集めている取引方法です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によって観光や旅行が難しくなったことも、越境ECの市場規模拡大の理由の一つ。これまでのインバウンド需要が、越境ECに移ったためです。
越境ECが注目される理由
越境ECが注目される理由は、いくつかあります。年々増え続けるインターネット普及率がまずその一つですが、その他の理由も見てみましょう。
企業側では「新規顧客を獲得できる大きな市場がある」というのが大きな理由です。国内で広く認知されている企業の場合、新規顧客の開拓というよりは、他の市場から今後の成長や需要を先読みし、顧客を獲得していかなければなりません。海外であれば、認知を広げることから始まり、国内で得たノウハウを活かしながらビジネスを拡大していけます。
もちろん、ユーザー側にもメリットがあります。自分の国にはない珍しいアイテムが手に入ることや、世界的にも信頼性の高いメイドインジャパンの製品を購入できることなどです。中国では偽物が横行しており、「信頼できる製品を購入したい」という傾向が顕著に見られます。
越境ECの市場規模
出典元:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)
経済産業省が公表した「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」によれば、2020年の世界の越境EC市場規模は9,123億USドルと推計されており、2027年には4兆8,561億USドルと大きな成長を見せることが予測されています。
年平均成長率は約27%と、越境ECには高い将来性があることがわかります。
越境ECの4つのタイプ
越境ECは、大きく4つのタイプに分けられます。それぞれの方法にメリット・デメリットがあるため、自社商品やサービスに合うか、目的を達成できる方法かなど、いくつか比較するといいでしょう。
自社で運営する
自社で越境ECサイトを構築し、運営する方法です。近年では自社ECサイトの構築・運営サービスも数多く存在することから、自社ECサイトを作りやすくなっています。
サイトデザインやシステムを自由に構築可能であるため、運営がしやすくなること、ブランディングがしやすいことなどがメリット。しかし、対象とする国や地域の消費者のニーズに合わせた決済システムを構築する手間や、集客コストが大きくなるというデメリットもあります。
海外のECモールを利用する
複数のショップが集まった、海外のECモールに出店するという方法もあります。海外モールを利用するときは、越境EC販売が可能なところを選びましょう。
欧米の代表的なモール「Amazon」「eBay」のほか、中国では「京東全球購(JD Worldwide)」「天猫国際(Tmall Global)」などが越境EC販売が可能です。
ECモールには「マーケットプレイス型」と「テナント型」の2タイプあり、以下のような違いがあります。
マーケットプレイス型 | モールのプラットフォームに「出品」する形で商品販売を行う |
テナント型 | モールのプラットフォームに「出店」する形で商品販売を行う |
代行販売する
海外への代行販売を行う業者に、自社商品を買い取ってもらうという方法もあります。自社で越境ECサイトを構築する手間や、海外モールへの出品・出店手数料がかからないことがメリットです。
ただし、代行業者が配送料や手数料を上乗せすることで、商品の価格が高くなるというデメリットも。また、代行業者を経由しての取引となるため、顧客の情報は得にくくなるでしょう。
保税区を活用する
保税区を活用した越境ECは、近年急速に拡大している中国向け越境ECで活用される方式です。中国国内の保税区(関税など輸入時の税金を課税されない状態で保管可能な区域)に商品を保管し、保税区から顧客に商品を発送します。
倉庫保管にはコストがかかるものの、すばやく顧客に商品を届けられ、輸送コストも抑えられます。人気商品など、安定して売れる商品の販売に適した方法です。
越境ECのメリット
まずは、越境ECならではのメリットを見ていきましょう。
- 海外の顧客を獲得できる
- 実店舗に比べて簡単に出店可能
- 日本ブランドなど付加価値で訴求しやすい
- リピート購入やファン育成にもつなげられる
- ビジネス拡大の可能性がある
越境ECの大きなメリットが、海外の顧客獲得や販路拡大です。実店舗に比べて簡単に、コストを抑えて出店可能であることも越境ECの魅力といえるでしょう。
また、日本国内では類似商品とのコスト勝負や差別化が激化している場合でも、海外ではその商品の歴史・開発ストーリー、そして日本ブランドという付加価値で訴求ができます。
InstagramやTwitterなどのSNSの活用や、海外に商品の卸先を見つけて実際に現地で商品に触れてもらう機会を作れば、ファンの獲得や育成、リピート購入にもつなげられるでしょう。
越境ECのデメリット
多くのメリットがある越境ECですが、デメリットもあります。
- 言語の違い
- 国や地域ごとの法律・規制に合わせた対応が必要
- 国内ECに比べて配送料・手数料が高い
- 日本よりもトラブルが多い可能性がある
まず問題となるのが、言語の違いです。決済やサポート対応はもちろん「どう翻訳すれば自社の商品の魅力が伝わるか」を考えなければなりません。
アメリカで明太子を「Cod roe(タラの卵)」として出したところ「気持ち悪い!」と酷評されたものの、メニュー名を「HAKATA Spicy Caviar(博多スパイシーキャビア)」に変えると爆発的にヒットしたという有名な話もあります。それぞれの国のニーズに合わせた戦略を練る必要があるでしょう。
また、法律や規制の違い、国内に比べると輸送コストがかかること、不正利用などのトラブル数などについても対処できるようにしておく必要があります。
越境ECを始める準備や手順
越境ECを始めるときは、最初にしっかりと準備を整えることが大切です。
- 商品・サービスを準備する
- 市場や商習慣、法律や規制などを調査する
- ターゲットを決定する
- 予算と人員を確保する
- 越境ECサイトの出店方法を選び、出店する
越境ECは実店舗の出店に比べて手間やコストが抑えられることが魅力ですが、準備を怠ればトラブルに巻き込まれたり、思っていたようにビジネスを展開できなくなってしまう可能性もあります。事前の調査と準備は、時間をかけて行いましょう。
すべて自分の手でおこなわず、専門的な部分は外部に発注することも選択肢のひとつです。たとえば海外への商品配送は「オープンロジ」のような越境ECに対応している物流代行サービスに依頼ができます。
越境ECを始める前に覚えておきたい注意点
ここからは、越境ECを始める前に覚えておきたい注意点について解説していきます。越境ECは魅力的なビジネスですが、成功させるためにはしっかりした事前計画が必要です。
自社商品・サービスにニーズはあるか
越境ECを始めるにあたって、自社商品・サービスのニーズについてのリサーチは欠かせません。人口が多い、市場規模が大きいという理由だけで出店すると、思わぬ失敗につながる可能性もあります。
国によって文化は異なり、顧客のニーズも変わってきます。市場だけではなく、その国の文化や社会情勢などにも目を向け、情報を集めましょう。
自社商品・サービスは越境EC向きか
「本当にその商品が海外で売れるのか」「海外で売りやすい商品なのか」という点も、慎重に検討する必要があります。
毛皮や革靴などは、関税が高い商品もあります。また、越境ECで頻繁に利用されるEMSではジュエリーやリチウム電池、食品は配送できないため、他の輸送サービスを検討する必要があるでしょう。
越境EC向きとされる商品としては、輸送のコストもかからず、支払い後はダウンロードするだけでOKな「デジタル商品」などがあります。
輸入禁止や規制のある商品もある
越境ECで取り扱える商品・サービスはさまざまです。日本国内で販売可能なほとんどの商品を取り扱い可能ですが、国によっては輸入禁止としていたり、現地確認が必要な商品もあります。
たとえば、中国では古着の輸入は禁止で、中古機器の輸入には現地確認が必要などの規制があります。各国の税関ホームページをチェックすれば、輸出入の許可リストが確認できるので、事前に確認しておきましょう。
国や地域によって法律や規制が異なる
販売先の国や地域によって、法律や規制が異なることも、注意が必要な点です。越境ECを行う国に合わせて、柔軟な対応を行う必要があります。
たとえば、中国では許可がなければインターネットサイトの開設・運営ができません。ICPと呼ばれるライセンスが必要になり、中国で越境ECを行いたい場合、まずはICPの取得が必須となります。
もしもライセンスを取得しないまま運営してしまうと違法となり、サイトの運営停止や罰金などのペナルティが科せられることもあります。
しっかり事前調査をしておかないと思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあるため、入念な調査を行いましょう。
まとめ
競争が激化する国内ECに比べ、今後大きな成長が予測される越境ECの市場には高い将来性があります。
日本製品には世界的な信頼があり、日本文化も海外から評価を受けているため、付加価値をアピールして海外のファンを獲得・育成するなど、商品販売のみに留まらないビジネス拡大の可能性があることも大きな魅力です。
ただし、国や地域が違えば言語、法律、規制、文化、人々の考え方や価値観などにも大きな違いがあります。それぞれの国に合ったビジネスを行うためにも、入念な事前調査を行いましょう。