私たちの記憶にも新しい「爆買」は、コロナ禍によって減少し、インバウンドは壊滅状態。そんな背景もあり、海外顧客へ向けた効果的な販売戦略となる越境ECビジネスの需要が高まっています。
本記事では、越境ECの中国市場に参入する際のさまざまなリスクや、リスクに備えた対策などを解説していきます。
目次
市場を拡大し続ける中国の越境ECとは?
中国のEC市場は、ほとんどがモール型になっており、格安スマートフォンなどの普及により買い物が簡単になったことから市場規模が拡大し続けています。
日本の事業者からの越境ECは、中国以外の国においても拡大傾向ですが、特に市場の成長が顕著な中国のEC市場にフォーカスして解説していきます。
中国越境ECの市場規模
経済産業省の発表によると、令和2年度に中国の消費者が日本の事業者から商品を購入した金額は1兆9,499億円とされています。
アメリカの消費者が、日本の事業者から商品を購入した金額は9,727億円となっているため、中国の消費者は、アメリカの消費者の2倍以上日本から商品を購入していることになります。
逆に、日本の消費者が中国の事業者から商品を購入した金額は340億円となっており、日本から見ると、大幅な貿易黒字になっていることも伺えるでしょう。また、中国の消費者がアメリカの事業者から商品を購入した金額は、2兆3,119億円となっています。
前年比で見ると、アメリカが15.1%増、日本は17.8%増となっており、メイドインジャパン製品への注目度が年々上がっている状態です。
そのため、中国のEC市場には、日本国内を上回る需要がまだまだ潜在していると見られています。
中国越境EC市場はECモールが一般的
気軽に海外旅行へ行けなくなった消費者の需要が、越境ECに移ったことで、中国市場が活性化。
日本において、ECモールは広く普及していますが、それは中国でも同じです。テンセントやアリババ、Tmallなどは日本でもよく聞く会社で、それぞれがECモールを運営しています。
中国では、スマートフォンでECモールにアクセスし、モールの中で買い物をするのが一般的です。日本でも欲しいものがあれば、まずAmazonや楽天で検索する方も多いのではないでしょうか。
中国の消費者は、期待通りのものを買うために、他人の購買行動を参考にする傾向が多く見られるため、モール内での評価が売上に強く関わっています。
販売側としては、消費者からの評価に注視する必要があり、中国越境ECで自社ブランドや商品の信頼を得ることが大切です。
中国越境ECは格安スマートフォンの普及により拡大
中国越境ECの市場が、年々拡大している理由に挙げられるのが、格安スマートフォンの普及です。今までインターネットで商品を買うことができない、またはパソコンを上手く扱うことができなかった消費者も、気軽にスマートフォン一つで買い物ができるようになりました。
更に、中国人は自国で買い物をする際にも、「偽物や海賊版を買うリスクを避けたい」と潜在的に思っていることです。
国内からでも、海外から正規品を気軽に購入できるようになったことが、越境ECのニーズが高まった大きな要因となっています。
中国越境ECのメリット
中国越境ECに参入する最大のメリットとは、販路拡大によって効果的な販売戦略を立てられることです。
中国の消費者は、嗜好品以外の、日用品においても自国製造のものを信用していないと言われているせいか、日本製の日用品や消耗品などの生活用品も人気。
日本製品で、中国の消費者のニーズを満たすことができ、ブランドとしての信頼を得ることが出来れば、リピート客が増加。モール内での自社製品の評価も上がり、クチコミが広がることで、さらに効果的なPRに繋がります。
現地に実店舗を構える必要も無い越境ECなら、中国市場へ進出のためのコストを抑えつつ、商法が変わりやすい中国の状況によって固定費が無駄になってしまうなどのリスクを回避しながら、事業を海外展開できます。
中国越境ECのリスクを解説
中国と聞くと、情勢が不安定なイメージを持っている人も少なくないかと思います。中国越境ECに参入し、大きなビジネスチャンスを掴むには、予めリスクを把握し、備えておくことが重要です。
例えば、日本と中国の文化の違いや、消費者の価値観の違い、法律や規制に関する基準の違いについては、必ず理解を深めておかなければなりません。
中国越境ECに参入するリスクを細分化して解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
文化や価値観の違いによる意思疎通の難しさ
国によって言語や文化、消費者の価値観が異なるため、買い物の傾向にも違いが現れます。
まず、言語が異なる時点で、全ての事務手続きなどのハードルが高くなります。意思疎通が取りづらいことから、本来はトラブルに繋がらないような単純なやり取りでも、クレームやトラブルに繋がる可能性があります。
文化や価値観の違いによって、例えば日本国内の消費者むけに販売する際に気をつけていることを、中国の消費者は気にしていなかったり、逆に日本の消費者が気にしない部分を気にする消費者がいる等のケースも多々あります。商品ページの詳細や注意事項の書き方等も工夫する必要があります。
中国越境ECで成功を掴むには、中国の消費者について理解を深めることが一番の近道ではないでしょうか。
クレジットカードの不正利用時の対処
中国越境ECで、クレジットカードの不正利用があった場合、回収がとても困難です。
例えば、未成年の子どもが無断で親のカードを使用した場合。取引はキャンセルになりますが、国境をまたいでいることから代金や商品の回収ができないケースもあります。
海外の消費者相手に訴訟を起こすにも、骨折り損のくたびれ儲けになる可能性が高いでしょう。このようなトラブルは、頻繁に起こることではないにしろ、高額な取引には注意が必要です。
損害による訴訟を起こされた場合のコスト
EC事業では、販売した商品によって消費者に損害を与えてしまった場合、訴訟を起こされるリスクがあります。例えば、販売した商品が輸送中に破損し、その破片で消費者が怪我をした場合などです。
もし、中国の消費者によって訴訟が起こされた場合、賠償金以外に越境トラブルに対応できる弁護士費用や渡航費用、場合によっては通訳費用などのコストが発生します。
訴訟トラブルになった場合、モール内の評価にも響き、その後の販売成績に悪影響を及ぼすことも想像できるため、PL保険などへの加入は必須になります。
法律や輸入規制に関する基準の違い
国によって法律が異なることから、想定外のものが輸入規制を受けていることもあります。また、食品添加物や農薬なども日本とは異なる基準をもって判定されるため、自社製品が該当するかどうかを把握しておく必要があるでしょう。
例えば、「日本から中国へ出荷した商品が通関せずに返送されてきた」、というケースでは、損害は送料のみです。しかし、モールに出店後、出荷した商品が実は中国の法律に反するものだった場合、商品が返送されないケースもあるため、大きな損害が発生します。
商品を販売するうえで、需要を調べるのはもちろんのこと、売りたいと考えている商品が中国の法律のもとで販売できるものなのか、しっかりと下調べすることが大切です。
情勢に伴う商法の変化
世界情勢の移り変わりが激しい昨今において、中国国内で目まぐるしく変わる商法には注目しておかなければなりません。
コロナ禍により、国境をまたいだ商品販売のルールが変わるケースは多いため、自社製品を中国越境ECで取り扱えるのかどうかを事前に調べておきましょう。
昨日まで通関できていた商品が、今日になって受け付けてもらえない、ということもありえる今のご時世では、情報収集力も必要不可欠です。
中国越境ECのリスクを捉えた対策
中国の消費者への理解を深めることや、言語能力、リスク告知書の用意、保険の加入、中国の商法の変化を捉える情報収集などのリスクヘッジが必要になります。
越境ECで問題が起きた時、国内ECとは全く違うリスクになります。例えば訴訟問題であれば、中国まで出向く必要性も出てきます。損害額についても、不測の事態が起これば解決のためにかかるコストも国内とは比べ物にならない場合もあります。
これから中国越境ECにビジネス参入する事業者に向けて、どのようなリスクを捉えた対策ができるのかを詳しく解説していきます。
中国の消費者の心理・購買行動を理解する
中国に限らず、外国と日本の常識の違いが少なからずあり、国の成り立ちや歴史、考え方など国によって様々です。
中国の消費者は、期待通りの買い物をするために考えることが日本の消費者とは異なるのです。日本でもクチコミや評価は重要視されますが、中国ではそれ以上に大切な条件になります。
日本と中国の文化の違い、消費者の心理や購買行動の違いを理解するために、中国での生活を体験するのも一つのリスクヘッジとなります。
中国の消費者と会話できる言語能力を身につける
中国の消費者と会話できる言語能力を身につけておくことで、顧客満足度を向上させられます。
中国EC市場はモール型が一般的ですが、ユーザーからの問い合わせは、サイト内でのチャットで行われることがほとんどです。そのため、問い合わせ対応の品質を高め、返信速度などにも注力することで、顧客満足度の向上が実現します。
対応の質が悪い、返答が遅いなどの問題があると、機会損失に繋がるため、ユーザーと会話できる最低限の言語能力を身につけておくことは必須です。
中国語には、北京語や広東語、上海語、香港語、台湾語などの種類があり、表記文字にも簡体字と繁体字の2種類があります。
中国越境ECへのビジネス参入において、言語という大きな壁を乗り越えなければならないのが第一関門になるでしょう。
万が一に備えたリスク告知書を作成する
クレジットカードの不正利用や、損害賠償などの対策については、商品ページやサイト内のわかりやすい場所へ、消費者にとってのリスクを明記しておきましょう。
一般的には、消費者権益を保護する観点から「リスク告知書に同意しなければ商品を注文できない形」にする必要があります。
高額商品を販売する場合は、消費者に身分証明書やクレジットカードの利用明細書のコピーの送信をしなければ注文できない仕組みにするなどの対策もしておきましょう。
損害賠償に関しては、PL保険を利用することでリスクを大幅に避けることができます。ただし、事業内容によって条件などが変わるため、保険担当者と綿密な相談が必要です。
中国の商法を遵守する
中国側と日本側では、輸入を規制している品目が異なる場合があります。
規制に違反しないように、予め「日本貿易振興機構(ジェトロ)」にて輸出入についての最新情報を確認しておきましょう。
また、昨今の中国では通関の際に、梱包を開けて中身を確認することが義務付けられています。例えば、LEDライトを販売して発送した際に「家電製品」などの大きな括りを記載してしまうと、「表記と内容物が違う」ということで税関ではじかれてしまうケースもあります。
発送する商品によっては、品目を細かく表記する必要があり、中国の税関でスムーズに確認が行えるようにルールに則って出荷する必要があります。
商品を届けるための梱包を厳重に
中国の税関では、ルールに適合していれば通関し、適合していなければ通関されません。
例えば、日本国内の配送業者に通じる「天地無用」という概念が無い国はたくさんあります。
日本からの国際輸送のルートは飛行機と船がありますが、輸送中に荷物の上下が逆さまになったまま運ばれたり、荷物が衝撃を受けたりすることは日常的です。
そういった厳しい輸送環境でも商品が破損してしまわないように、丁寧に梱包する必要があります。
配送用のダンボール箱が破れてしまったり、凹んだりしていても、中身である商品が無事であればクレームには繋がりません。
また、輸送中に荷物から液体などが漏れて他の荷物を濡らしてしまった場合にも、損害賠償の対象になるため注意してください。
世界情勢には敏感に
中国越境ECを検討されるなら、中国と日本の国交に関する情報には敏感である必要があります。情勢が変わりやすい昨今においては、日本の外務省などが発表する最新情報を、ニュースサイトなどで日頃からチェックしておきましょう。
特に中国のルールは、目まぐるしいスピードで頻繁に変わっています。最新情報をおさえておかないと、知識不足による規約違反によって大きな損害に繋がりかねません。
例えば、特定の品目の関税が急に上がってしまう等のリスクが想定されるため、輸入規制や輸送方法のルールなどが変わる時には先読みしてリスクヘッジすることが大切です。
まとめ
中国越境ECにビジネス参入する際、リスクとなるのが言語の違いや、クレジット決済、損害賠償、商法が変わりやすいなどです。想定されるリスクに対しては、言語の習得や、リスク告知書の作成、保険の加入、情報を常に収集するなどの方法で大きな損害を回避できます。
日本では人口が減少傾向にあり、今までのようなインバウンドも期待できないとなれば、やはり越境ECはとても魅力的な市場です。しかしながら、海外の消費者に販売をするとなると、まずは相手国の理解を深める必要があります。
特に中国は、目を見張る速度でEC市場が成長し続けている国です。中国の消費者の価値観も日々変わっていくことを予測しながら、自社商品やサービスを越境ECで効果的に販売できる戦略を立ててみてください。
「中国越境ECで勝つ」ということは、日本の国益に貢献することにも繋がります。成功するためにも、リスクに備える対策を万全にしていきましょう。